2016/07/29発行 2016 SUMMER掲載記事

ビジネスインタビュー

JALフィロソフィで 人材育成、
サービス向上

日本航空(JAL)米州地区支配人、
ニューヨーク支店長 木村 啓


 2010年の経営破たん後、JALは稲盛和夫会長(現名誉会長)の下、その経営理念を盛り込んだ「JALフィロソフィ」を取り入れ、社員一人一人の意識改革に取り組んだ。その成果は、着実に再生を果たしていることにも表れている。今回は、木村啓米州地区支配人に、JALにとって重要な市場であるアメリカでの活動について聞いた。

――まず、お仕事について。米州地区支配人とニューヨーク支店長を兼任していますが、それぞれがどんな業務なのか教えてください。

 米州地区は西はグアム、ハワイから、北米、中南米全土を含む非常に広いエリアで、日本から10都市に直行便で乗り入れています。

 このエリア内の全ての運航、業務を統括するのが米州地区支配人の職務です。ニューヨーク支店長としては、東海岸南部までの管轄エリア内でのJALブランドの認知とセールスが主な職務です。

――仕事の中で大切にしていることは?

 セールスであれば数字で、サービスであればお客さまの声で、運航は定時発着率などデータで出ますから、それで成果を判断することはできます。ですが机上だけで成果を見て何かを判断するのではなく、直接顔を合わせ、各支店、個々のスタッフが抱える問題、今取り組んでいる課題について話し合い、一緒に取り組んでいくこと、コミュニケーションを大切にしています。

――管轄エリアが広いだけに移動も大変ですね。

 米州地区本部はロサンゼルスにあるので月一回は訪問しています。各支店もひと月に二つ程度訪れます。朝にニューヨークを出て、時差を利用し昼前に目的地に到着、夜遅い便で出発し、翌朝到着という0泊2日が多いです。でも会って直接話すことの大切さを考えるとまったく苦ではありません。

――米州地区の現在の取り組みについて教えてください。

 米州地区は三つの目標を立てています。一つはサービスの質の向上。この分野では世界ナンバーワンを目指して取り組んでいます。二つ目は人材育成。サービスを提供し、質の高さを支えるのは人ですから、スタッフ教育に力を入れています。そして三つ目は、日本人以外の特にビジネスパーソン層のお客さまの需要を増やすことです。日本の航空会社として、もちろん日本人のお客さまが大事であることは変わりませんが、米州においては日本人以外のお客さまをもっと積極的に取り込んでいく必要があります。

――現職に就任して1年、ご自身ではどんな成果を挙げたと分析していますか。

 三つ目の日本人以外のお客さまへのアピールという部分に積極的に取り組んでいます。データを分析すると米州から、日本も含めた東南アジアに渡航する人の数は増加しています。またアメリカ人のビジネスパーソンが出張でアジアに赴く場合、一か所にとどまらず、数都市を回る傾向もあります。ならば例えば日本を基点にしたアジア便のサービスを充実させニーズに対応しようと考えています。

 そんな中、こちらに来て早々、アメリカ人のビジネスパーソンに対して、認知度調査を実施しました。結果は世界の航空会社の中で6番目。われわれよりも上位だった他のアジアの航空会社は当地で積極的に各メディアに広告を出しているところばかり。そこでわれわれも戦略的に広告を展開し、存在感をもっとアピールしようということになりました。

 10月から今年3月まではペンステーションはじめ地下鉄駅入り口で広告を展開しました。今年も同様に展開していく予定です。

――2020年東京オリンピックに向けて、ますます日本、アジアへの渡航者が増加するとみられています。その中でJALの果たす役割は?

 米州、アジアにおけるわれわれの果たす役割はさらに大きくなると感じています。ただしわれわれはローコストキャリアではなく、フルサービスキャリアを目指していますから、「安いから乗る」のではなく、お客さまが、「この品質ならば、これだけのお金を払っても満足する」と考えていただける商品、サービスを提供することが不可欠です。経営破たん後、収益を上げられるようになり、ようやく投資が可能になったこともあって、座席、機内食なども他社に先駆けて新しいものを取り入れることができるようになりました。座席ではフルフラットの「JALスカイスイート」を米州では一部の路線を除いて全便のビジネスクラスに導入していますし、6月からボストン線には新機材ボーイング787―9を導入しています。ビジネスクラス以上では著名シェフとコラボした機内食の提供、チャイルドミールもスターシェフが監修しています。また今後はさらに、ネットワークを拡充することも課題です。米州でのジョイントパートナーはアメリカン航空ですが、米国・カナダ西部地区へのネットワーク拡充を目的として、6月からその部分はアラスカ航空ともコードシェアしています。

――サービスの土台となる人材育成での取り組みは?

 人材育成に関しては、人の性格、行動が一朝一夕に変わるものではありませんが、経営破たん後は、稲盛和夫現名誉会長がもたらしたJALフィロソフィを土台にしたことで、社員一人一人に意識改革が起こりました。仕事だけでなく、人間としての生き方を学ぶことを全社員が意識するようになったことが大きな変化です。

 例えばフィロソフィでは、判断に迷ったときに、「人間として何が正しいかで判断する」と教えています。例を挙げると、本来提供すべきサービスを提供できなかった、忘れたとします。そこで、お客さまには何も言われなかったからいいや、ではなく自分の良心に従い、正しいことをしようと考えるわけです。考え方の基軸が変わり、行動が変わり、フィロソフィがあることでみんなが正しい方向を向くことができる。そうなると「お客さまはこうしたら喜ぶよね」「だからやろうよ」という動きも自然に生まれ、サービスの質の向上にも反映されます。アメリカ人スタッフに対しても同じで、分かりにくい部分はエッセンスを伝えるといった工夫はしていますが、それよりも、意識し続けることが大事で、部署ミーティングでも話し合い、リマインドもします。そうやってフィロソフィを体感し体現することが大切です。

――ニューヨーク在住者にアピールしたいことは?

 ぜひ一度、JALをご利用ください。そしてサービスが昔とどれだけ変わったのか体験していただければ、ファンになっていただける自信があります。またニューヨーク―東京便はお客さまに愛され、おかげさまで11月12日で開設50年を迎えます。いろいろなキャンペーンも予定していますから、ぜひ楽しみにしていてください。

ボストン―成田線に導入された最新鋭ボーイング787-9
黒木純シェフが手掛けるビジネスクラス機内食(写真はイメージ)

木村 啓 Akira Kimura

東京都出身。東京大学経済学部卒業後、1982年4月に日本航空へ入社。沖縄那覇空港でのディスパッチャー業務を経た後、客室業務部、商品開発部、内部監査部門などを経て昨年6月から現職。趣味はマラソンとピアノ。これまで東京マラソン、大阪マラソンにも出場。

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