2016/07/29発行 2016 SUMMER掲載記事

堀古英司の経済ミラクルキャッチ!

第一回 「リーマン狼」少年の話

ニューヨークは世界経済の中心地。せっかくこの地にいるのだから、株価の動向、企業の買収や合併、金利政策などを理解し、資産運用に生かしたい!敏腕ヘッジファンド運用マネジャーが、経済情報の読み解き方をやさしく解説する。WeeklyNYジャピオンの連載コラムがグレードアップして新連載。

リスクを恐れ売っていては
 リターンを得る資格はない

 「リーマンショック級の危機が来るぞ~」
 皆さん、最近こういう論調や記事を目にすることが多くありませんか?一昔前なら、人々が情報を得る手段といえばテレビ、ラジオ、新聞、雑誌がほとんどだったと思います。しかし、インターネットの出現と共に、情報を得る手段は格段に増加しました。最近の若い人たちはほとんどテレビを見ないといいますし、無料で、しかもリアルタイムでインターネットから情報を得られる時代に、有料の新聞や雑誌が競争上不利であることは明らかでしょう。

 このようなメディアの変化と共に、人々が注意しなければならないことがあります。そもそもインターネットは何故、無料で情報を配信できるのでしょうか。それはインターネットのほとんどは広告収入で成り立っていて、人々がクリックすることによってビジネスが成り立っています。逆に言えば、クリックしてもらわないとビジネスが成り立たないのです。それではどうすれば記事に対してクリックしてもらえるようになるのでしょうか。

クリックを促す
「リーマン狼」少年

 これが「リーマン狼」少年が急増している背景です。金融危機以降、皆さんは多くの「リーマン狼」少年を見たと思います。ギリシャ危機、米国政府機関の閉鎖、中国株急落、原油価格下落、英国のEU離脱等々。それらの出来事が起こるたびに、「リーマンショック級の危機が来るぞ~」と叫び、人々の不安を利用してクリックに結び付ける。

 その人たちにとっては、その後それらの出来事がリーマンショック級の危機に至ろうと至らまいと、知ったことではありません。クリック数を稼ぐことだけが目的であって、読者の投資に役立つかどうかなど関係ないことなのです。

 確かにリーマンショックは「100年に一度」といわれるほど、金融システムにとって大変ショッキングな出来事でした。人間は楽観的なニュースよりも悲観的なニュースに反応しますから、リーマンショックは、クリックを稼ぎたい人にとっては格好の出来事になっているのです。「リーマン狼」少年はこうして生まれてきたのです。

 中には「リーマン狼」少年の論調や記事をうのみにして、保有していた株式を売ってしまった人もいるかもしれません。現在米国株式相場は史上最高値ですが、当然のことながら、「リーマン狼」少年は、そのような人が得られたであろう利益を補償してくれるわけではなく、お気の毒としか言いようがありません。

同じ傾向に走る
各種メディア報道

 投資の世界では、投資アドバイザーが推奨した銘柄が下落すると、場合によっては訴訟を起こされる可能性がありますが、「株が下がるぞー」と言われて投資する機会を逃しても、逸失利益に対して訴訟を起こされることはないのです。

 この傾向はインターネットだけではありません。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌といった旧来のメディアもインターネットに視聴者や読者を奪われないよう、同じような傾向に走っていかざるを得なくなります。一昔前のメディアなら、もう少し公正な報道がなされていたような気がします。

リスクを取る
代償がリターン

 このメディアの大きな変化によって、一般の投資家は、メディアに対する姿勢の大変換を迫られています。すなわち、メディアからはもう、投資に対して悲観的な情報しか入ってこないものだ、ということです。

 先日、日本で講演させていただく機会があり、講演前に、参加者からの質問票をいただきました。ほんの一部ですが、質問の内容はほとんどがこのような感じでした。

・ 米国経済が本格的なリセッションに入る可能性はありますか?
・NYダウ暴落説を聞くことも多いのですが、ダウはさげないのですか。
・今後、サブプライムショック、リーマンショック級の暴落があるとちまたでささやかれていますが、堀古さんはどうお考えでしょうか?

 繰り返しになりますが、現在、米国株式相場は史上最高値を更新しています。経済が成長して企業業績が増加する限り、株価が上昇するのは当たり前なのです。

株式投資には
リスクが付き物

 もちろん株式投資にはリスクは付き物であり、右肩上がりの直線で上がっていくわけではありません。しかしそもそも、投資家とは経済のリスクの担い手であって、何かショックがあった時にクッションの役割を果たして吸収すべきものなのです。

 リターンはリスクを取った代償として手に入れられるものであって、リスクが予想されるからといって売っているようではリターンを得る資格はありません。

 少なくともそろそろ、「リーマン狼」少年にだまされないくらいの教訓は学んでいていいころだと思います。

リーマンションなどのショッキングな出来事が起こった際、メディアは悲観的に報道する傾向がある。論調や記事をうのみにせず、自分のリスクを踏まえて事態を把握する必要がある

堀古英司

堀古英司
■ニューヨークに拠点を置く投資顧問会社、ホリコ・キャピタル・マネジメントLLC最高運用責任者。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」をはじめ、メディアに多数出演。著書に「リスクを取らないリスク」。関西学院大学時代、アメフト部で活躍。

【危機といわれた金融関連の事件】

●リーマンショック(2008年)
2008年9月15日に、当時米国4位だった投資銀行、リーマン・ブラザーズが米連邦破産法11条の適用を申請し経営破綻。世界的な株価の暴落、米国、欧州、日本がマイナス成長に陥るなど、世界同時不況の引き金となった一連の事態を指す。リーマン・ブラザーズは、低所得者層向け住宅ローン、サブプライムローンの証券化商品を大量に抱えていたが、住宅バブル崩壊により株価が急落。負債総額の6130億ドルは史上最大だった。
●ギリシャ危機(2010年~)
2009年10月の政権交代を機に、GDPの5%程度と発表されていたギリシャの財政赤字が、実際は13%近くに膨らみ、債務残高も国内総生産の113%に上っていたことが明らかになった。これに対し、ユーロ圏諸国の財務相会合において、10年5月に第一次支援、12年2月に第二次支援などが決定された。支援の条件としたEUなどよる緊縮財政政策が強いられ、10年以降、生産は25%、雇用も25%落ち込み、国内には不満が広がっていった。
●英国のEU離脱表明(2016年)
ブレグジット(Brexit)は英国(Britain)と離脱(Exit)を合わせた造語。先月23日、英国ではEU離脱の是非を問う国民投票が行われ、51.9%で離脱が支持された。これを受け7月11日、テリーザ・メイ内相が首相、および与党の保守党党首に就任。メイは国民投票ではEU残留を支持したが、国民投票のやり直しはしないと明言し、EU離脱を推し進める考えを示している。

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