2016/09/30発行 2016 FALL掲載記事

堀古英司の経済ミラクルキャッチ!

第二回 大統領選挙と株式相場

ニューヨークは世界経済の中心地。せっかくこの地にいるのだから、株価の動向、企業の買収や合併、金利政策などを理解し、資産運用に生かしたい!敏腕ヘッジファンド運用マネジャーが、経済情報の読み解き方をやさしく解説する。WeeklyNYジャピオンで連載したコラムがグレードアップして登場。

相場下落材料は不透明感
議会決議が大きな影響力

 この号が出回るのは、大統領選挙まであと1カ月前後、またはそれよりも短くなっている頃だと思います。オバマ大統領が任期満了となることもあり、特に今年は大統領選挙が経済や市場に与える影響について聞かれる機会が多くありました。

 結論から申し上げると、一般の人が考えているほど「大統領選挙」が経済や市場に与える影響は大きくないと思います。しかしもちろん、全くないわけではありません。そこで今回は、どのような影響があって、どのような点が「考えているほど大きくない」のか、について述べてみたいと思います。

 まず影響があると考えられるのは、不透明感です。ビジネスを営むにあたってはほとんどの場合、少なくとも3年以上先を見据えた経営を考えると思います。しかしそのような時、大統領が交代することをきっかけに、さまざまな政策が変わるとなると、大統領選挙が終わってきっちり政策が明確になるまで積極的な雇用や設備投資は控えようということになるでしょう。市場では例えば、薬価抑制につながる法律が成立する可能性が高まれば薬品会社の株には大きな打撃でしょうし、金融規制が強化されるとなれば、ウォール街の金融機関にとっては痛手となるでしょう。

交代前の不透明感で
市場は調整の傾向へ

 これを裏付けるように、歴史的には特に、2期(8年)続いた大統領の任期後半に株式相場が大きく調整する傾向が見られます。リチャード・ニクソン大統領は8年続きませんでしたが一応2期目、ロナルド・レーガン大統領時は1987年ブラックマンデー前がほぼ高値、クリントン大統領は任期満了の10カ月前からITバブル崩壊、そしてジョージ・W・ブッシュ大統領は任期満了の1年半前から金融危機に見舞われ、オバマ大統領の任期満了を1年後に控えた今年初めにも株式相場は一時大きく下落しました。

 相場の下落材料としては大統領に直接関係ないと思われるものもありますが、大統領交代を前にした不透明感の高まりから、このような調整を支えられるような大きなサポート材料がなかったということは言えるでしょう。

 ただこの「不透明感」の良い所は、期限付きだということです。というのは、大統領選挙が不透明感の要因だったわけですから、大統領選挙が終われば、ビジネスも相場もこの不透明感からは解放されます。データからも、この傾向は裏付けられており、大統領選挙直前に株式相場が足踏みするものの、大統領選挙前後から比較的大きく上昇する傾向が見られます。不透明要因がなくなることによって、経済や投資活動を通常通りに戻しやすくなるという点で、当然と言えば当然と言えます。

経済法案成立には
議会の協力が必須

 次に、人々が考えているほど影響が大きくない点を挙げたいと思います。それは、メディアを中心に大統領選挙は大々的に取り上げられるものの、アメリカの法律成立に当たって、より重要な役割を果たすのは議会だということです。基本的にアメリカの法律は、上院、下院の両方で承認され、大統領の署名を経て成立することになっています。大統領には拒否権がありますが、差し戻されても議会で3分の2の賛成を得ればその法律を成立させることができます。現実的には現在、上院も下院も、3分の2の賛成を得るというのは極めて困難なため拒否権は有効ですが、逆に議会の協力なしに法律を成立させることはできないのです。

 近年、地政学的リスクの高まりにより、軍の最高司令官としての役割がクローズアップされてきた感はありますが、こと経済政策に関しては法律の成立が必要なわけですから、大統領の権限で何でもかんでもできるわけではないということです。要するに経済に与える影響を考えるに当たっては、大統領に誰がなるか、ということに加えて議会とのバランスが重要だということです。

トランプ公約通りなら
日本経済にメリットも

 今回のケースで言えば民主党のヒラリー・クリントン候補が有利と言われていますが、議会下院では共和党が圧倒的多数で逆転はほぼ不可能と見られるため、経済政策でそれほど大きな変化が出る可能性は低いと言えます。

 最後によく聞かれる、日本経済への影響について記しておきたいと思います。一般にドナルド・トランプ候補は日本に対して強硬と見られているようですが、恐らく日本経済はトランプ大統領からよりメリットを享受できると考えています。というのは、トランプ氏が大統領になるケースでは議会も共和党が過半数である可能性が高く、公約通りの経済政策が実行されるとすれば、ドル高円安が進行すると考えられます。アベノミクス以降、日本は円安によって大きなメリットを受けましたが、トランプ大統領の下では日本による努力なくしてそのような効果が期待できるということです。

 もっともそのようなメリットをタダ取りしていると、トランプ大統領が日本に対して強硬姿勢を取ってくるのもほぼ確実でしょう。

堀古英司

堀古英司
■ニューヨークに拠点を置く投資顧問会社、ホリコ・キャピタル・マネジメントLLC最高運用責任者。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」をはじめ、メディアに多数出演。著書に「リスクを取らないリスク」。関西学院大学時代、アメフト部で活躍。

【大統領交代時期の騰落率】

●ニクソン政権交代時(1974年)

リチャード・ニクソン大統領(第37代、共和党、任期1969年1月20日〜1974年8月9日、2期目の当選を果たしたが、72年のウォーターゲート事件の引責で辞任)の交代時の1974年のニューヨーク・ダウ株価の騰落率は-27.6%だった。(ダウ平均株価は1月で$4353.04、12月$で2805.60)

●クリントン政権交代時(2000年)

ビル・クリントン大統領(第42代、民主党、任期1993年1月20日〜2001年1月20日=2期)の交代時の騰落率は-6.2%だった。(ダウ平均株価は1月で$15371.44、12月で$14704.03)

●ジョージ・W・ブッシュ政権交代時(2008年)

ジョージW・ブッシュ大統領(第43代、共和党、任期2001年1月20日 – 2009年1月20日=2期)交代時の騰落率は-33.8%。(ダウ平均株価は1月$14206.35で、12月で$9899.77)

*騰落率/percentage change=一定期間の開始と終了で株価の変化を表す数値。参考=www. forecast-chart.com/historical-dow-industrial.ht ml

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