2017/01/06発行 2017 WINTER掲載記事

堀古英司の経済ミラクルキャッチ!

第三回 トランプ大統領下で 見直される成長の源

ニューヨークは世界経済の中心地。せっかくこの地にいるのだから、株価の動向、企業の買収や合併、金利政策などを理解し、資産運用に生かしたい!敏腕ヘッジファンド運用マネジャーが、経済情報の読み解き方をやさしく解説する。WeeklyNYジャピオンで連載したコラムがグレードアップして登場。

中長期経済に有効
税率の低下を歓迎

 2016年大統領選挙は大方の予想を覆し、共和党候補のトランプ氏が勝利、議会も上院・下院ともに共和党が過半数を取る結果となりました。

 現実的には、共和党は上院で議事妨害を阻止するのに必要な5分の3には達していないため、どんな法案でも通せるわけではありませんが、トランプ氏、共和党が目指す政策が通りやすい状況になったことは確かです。とりわけ、成長の源である資本に対する税率が低下することによって、中長期にわたってアメリカ経済に望ましい状況が訪れると考えています。

オバマ政権下の政策
成長の努力は疎かに

 オバマ大統領は人間的に素晴らしく、信頼、尊敬の点では歴代大統領の中でもトップクラスだったと思います。しかし経済政策の面では大きな政府を目指す方向に舵が切られ、増税や規制強化など、決してビジネスを営むにあたって好ましい環境とは言い難い状況でした。富の再分配に重点を置くあまり、そもそも富を生むこと、成長への努力が疎かになっていたと言わざるを得ません。

 例えば投資で100ドルの利益が生まれた場合、法人レベルで連邦・州を合わせて40%の法人税が差し引かれ、ニューヨークのマンハッタンに住んでいると個人レベルで連邦所得税の最高39・6%(但し長期投資所得は軽減税率適用)とオバマ大統領が導入した3・8%、さらに州と市に12・7%の税金を支払わなければなりません。この結果、生まれていた100ドルの利益は、全ての税金を差し引くと個人の手元には26ドルしか残らない計算になります。

 これではあらゆるビジネスの源となる投資意欲は削がれ、富が生まれにくい状況になるのは当然です。リスクに見合うリターンが期待できないと知った投資家は投資を諦め、ゼロ金利でもマイナス金利でも喜んで国債を買うという状況が続くでしょう。

まずは税制改革
税率の引き下げ

 このような中、トランプ大統領は就任後、まず税制改革に着手すると見られています。中でも法人税減税は民主党も提唱していたことから、比較的実施されやすいと思われます。トランプ氏が提唱していた15%は難しいにしても、25%程度への引き下げは十分有り得るでしょう。

 また個人所得税についても最高税率は33%に引き下げられる可能性が高いほか、オバマケアと共に導入された3・8%の投資課税は廃止されると見られます。この結果、法人レベルで15%程度、個人レベルで10・4%、資本に対する税率は引き下げられることになります。

 それでも100ドルの利益に対して、税引き後個人の手元に残るのは40ドルに過ぎませんが、相対的には50%以上の増額ですから、かなり投資環境は改善されると見てよいでしょう。

金融への規制緩和で
「血液」循環促進へ

 期待できるもう一つの大きな変化は規制緩和です。2007年に始まった金融危機の責任を取らせようと、オバマ政権の下では非常に厳しい金融規制法案が成立し、金融機関にはいまだに当時の責任を問う巨額の罰金を科す処分が発表されています。もちろん当時の金融機関の行動は目に余るものがありました。

 しかし、経済の血液とも言えるお金を世の中に供給するのは金融機関であり、そこを痛めつけてしまうと、結局損をするのはアメリカ経済全体ということになってしまいます。大統領選挙後、最も株価が上昇しているのは金融セクターですが、逆に言えば、オバマ政権下でいかに厳しい状況に置かれていたかということが分かります。

投資意欲の回復から
3〜4%成長へ期待

 今後トランプ政権下で、具体的にどのような経済政策が取られていくかが注目を集めることになると思います。しかしアメリカ経済にとって根本的に重要なのは、経済活動の源となる資本が流れやすい環境になることです。資本に対する税率が下がってビジネスの源である投資意欲が回復し、規制が緩和されて経済の血液であるお金が世の中に回りやすくなれば、アメリカ経済は長く続いた2%成長から遂に脱却し、3〜4%の成長が期待できるようになると見ています。

堀古英司

堀古英司
■ニューヨークに拠点を置く投資顧問会社、ホリコ・キャピタル・マネジメントLLC最高運用責任者。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」をはじめ、メディアに多数出演。著書に「リスクを取らないリスク」。関西学院大学時代、アメフト部で活躍。

【トランプ政権の経済閣僚】

米国の製造業の復興、外国への雇用機会の流出の阻止などを掲げるドナルド・トランプ次期大統領は、1月の就任に向け、次期政権における中心となる経済関連の閣僚の組閣を進めている。とりわけ、政治経験のない財界からの入閣が目立つ。  12月22日現在で、ほぼ確定とされている人事は、財務長官に元ゴールドマン・サックス幹部で、大統領選でトランプ陣営の財務責任者スティーブン・ムニューチン氏、国務長官に、エクソンモービル会長兼CEOのレックス・ティラーソン氏、商務長官に、WLロス&カンパニー会長で投資家のウィルバー・ロス氏、国家経済会議(NEC)議長にゴールドマン・サックスの社長兼最高執行責任者(COO)のゲーリー・コーン氏、米通商代表部(USTR)代表に米鉄鋼大手ニューコア(NUE.N)元CEOのダン・ディミッコ氏を据えている。また海外への雇用流出を防ぐための戦略を立てる部門として、国家通商会議(National Trade Council/ NTC)を新設し議長に対中強硬派の経済学者で、カリフォルニア大アーバイン校教授のピーター・ナバロ氏を指名した。

 

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