2017/03/31発行 2017 SPRING掲載記事

堀古英司の経済ミラクルキャッチ!

第四回 「トランプ対メディア」 投資家は本質を見抜け

 皆さんもよくご承知の通り、昨年11月の大統領選挙に向けては、アメリカの大手新聞の9割以上があらかじめクリントン支持を表明しており、実際の報道もそのような記事が大勢を占めていました。

 一昔前であれば、圧倒的にメディアが反トランプに回る中で、トランプ氏が勝利するというのはほぼ不可能であったでしょう。逆に言えばトランプ氏は、これだけメディアを敵に回す中で初めて当選した大統領と言えます。

 大統領選挙後、しばらく大手新聞は予想を外したことの原因究明や反省に紙面を費やしていましたが、トランプ大統領が大統領令を連発し始めるやいなや攻勢を再開し、今や「トランプ対メディア」と言われる構図が定着してきています。

SNSの登場と
メディアの収益

 トランプ氏がメディアを敵に回せる背景には、ここ10年ほどで進んでいる、メディアを取り巻く環境の大きな変化があります。チャートは、トランプ氏に対抗するメディアの代表格であるニューヨークタイムズの、ここ10年間の総収入及び広告収入を示したものです。ニューヨークタイムズの収入は2000年以降、頭打ちながらも高水準を保ってきましたが、2007年から12年にかけて半減、広告収入は今も減少の一途をたどっています。背景にはもちろん、無料で情報を取得できるインターネットやSNS(ソーシャルネットワークサービス)の存在があるわけですが、ニューヨークタイムズ内部だけでも、紙面から広告スペースが限られるオンラインに読者が移行する中、広告収入の減少に歯止めがかからないという、大きな変化が起こっています。

大統領選が追い風
オンライン読者急増

 このような経営状況の中、ニューヨークタイムズにとって神風となったのは昨年の大統領選挙でした。2016年10〜12月期はオンライン購読者が27万6000人の純増と、15年1年間の純増数をたった3カ月で超え、11年にオンラインを有料化してから最多の増加数を記録したのです。

 反トランプというのは、もちろんニューヨークタイムズの、メディアとしてのポリシーもあるでしょう。しかし同時に、ニューヨークタイムズも株主のために利益を追求しなければならない民間の一上場企業であり、このような傾向を無視することはできないはずです。そうすると情報を取り入れる側が気を付けなければならないのは、これまでにも増して、公平性を疑って見なければならないということです。

経済ニュースの扱い
バランスには注視を

 例えば2月28日に行われたトランプ氏の初めての議会演説の翌日、ダウは1日で300ドル以上の上昇となり、史上初めて2万1000ドルに乗せました。これは一昔前であれば、一面に載ってもおかしくないニュースです。しかし私が確認した限りではニューヨークタイムズの扱いはビジネス欄に小さいフォントで2行だけ。もちろん虚偽の記事を掲載しているわけではありませんが、取り扱い方のバランスを変えることで読者の印象は随分変わります。今後もトランプ氏の影響で株価が上昇したり、経済が良くなったりする記事は、同氏が暴言を吐く時に比べてかなり小さい扱いとなっていくのでしょう。

 このようなメディアの姿勢を嘲笑するかのように、大統領選挙後、企業や個人の先行き心理を表す指標は明らかに上向きましたし、米国株式市場は連日の史上最高値更新となっています。このような状況で、次にメディアが言い始めることは目に見えています。それは「トランプ・バブル」です。

インフレ率2%超
株式投資が有効に

 現在、アメリカの期待インフレ率は2%を超えてきています。10年物国債に投資すれば2・5%の利回りが得られますが、多くの人は税引き後の利回りが2%を下回りますので、実質的には資産が目減りしていくことになります。

 このような中、株式は皆さんにとって有力な資産運用手段だと思います。しかし多くの人はメディアで「トランプ・バブル」という文字を目にしたら投資意欲がなえてしまうのではないでしょうか。メディアは皆さんの資産目減りの責任など取ってくれません。投資家にとってはこれまでにも増して、メディアが発信する情報の、本質をつかむ作業が重要になってきている、ということです。

堀古英司

堀古英司
■ニューヨークに拠点を置く投資顧問会社、ホリコ・キャピタル・マネジメントLLC最高運用責任者。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」をはじめ、メディアに多数出演。著書に「リスクを取らないリスク」。関西学院大学時代、アメフト部で活躍。

【伝統的メディアの購読者の増加】

1851年創刊、地方紙が主体の新聞メディアにあっては、最も世界に知られるニューヨークタイムズの現在の購読者は紙版、デジタル版を合わせ約300万人といわれる。そのリベラルな論調から、先の大統領選ではヒラリー・クリントン候補を支持、大統領選のピークを迎えた昨年10月から12月の第4四半期だけでデジタル版のみの購読者27万6000人が新規登録している。しかし、同紙の発表によると、2016年の紙版の広告収入は前年比で16%ダウン、全体で9%のダウンとなり、1月に同紙が発表した内部報告書では、デジタルコンテンツにより力を入れる方針を強め、それに伴い、よりデジタルの知識を持ち、より幅広いスキルを持つ編集者、記者、ジャーナリストを雇用し、読者への信頼を勝ち取ることで、生き残りに必要な購読者を確保していくとしている。

 

1889年創刊の全国紙および経済紙のウォール・ストリート・ジャーナルも同様に、昨年10月から12月の第4四半期に、デジタル版のみの購読者11万3000人が新規登録している。  情報源や事実と異なるニュース、フェイクニュースの氾濫する昨今の現状から、より正確な情報を求める読者が増えている傾向も見られ、伝統的メディアへの回帰に拍車が掛かるとみられる。  (参照:「New York Times」2017年1月17日号、2月2日号)

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