2018/03/30発行 2018 SPRING号掲載記事


vol. 6 ●ボーン&カンパニー

歴史ある印刷技術を伝える

 同じ名前で営業している店として、ニューヨーク市内で最古といわれているのが、1775年創業の「ボーン&カンパニー・ステーショナーズ」。活版印刷機を使った印刷業務と文具販売を行う。

 ボタン一つでカラー印刷が可能な現代で、あえて手動で印刷(プレス)し続ける理由を探りに同店を訪れた。

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 ヨハネス・グーテンベルクが活版印刷を生み出し、ヨーロッパに大量印刷技術をもたらしたのが1450年ごろ。1859年代には、マンハッタン内だけで800以上の活版印刷の専門店があったそうだ。全盛期を過ぎた1975年、同店は印刷機のいくつかをサウスストリート・シーポート博物館に寄贈。現在は同博物館が、印刷体験ができる印刷所と文具店を運営している。

 印刷工(プリンター)のロブ・ウィルソンさんの案内で、まずは文具店へ。紙製品だけでなく、カトラリーやおもちゃまで、幅広く扱う、「1970年代の文具店」を目指した店だ。奥は作業スペース。目を引くのは、ボストンにあったゴールディング社(1845~1916年)の足踏み式印刷機、1901年製。

 ロブさんはペダルを踏み続けながら、手際よく紙を入れ替え、オットセイの絵柄を大量に刷って見せてくれた。均一ではない、少し擦れた線はまさしく「手作り」。

 「最近はパソコンでも、かすれや色ムラを再現できるようになりました。でもそれは一定のパターンを機械的に入れ込んでいるだけ。それに対して活版印刷は、紙に強くプレスすることによる立体感があるんです」

 脇の引き出しには、活字がみっちり詰まっている。文字によっては書体や字の大きさの違いで900通りもあるそうだ。新米印刷工(プリンターズデビル)の最初の仕事といえば、活字の整理だった。使用頻度の高い文字を中心に仕分けされているため、配置場所を覚えることから始めたのだという。

 印刷所には、ポスターや新聞などの大判刷り用、子供や初心者が使いやすい小さなレバー式など、多種多様な印刷機があるが、保有する34台の全てが、製造終了している。

 「今あるものだけが全て。だからと言って、ただ保管用に飾っておくだけでは印刷機の存在意義は半分以下。印刷してこその印刷機です」

 ロブさんが、大きな印刷機でポスターを刷って見せてくれた。ローラーで活字にインクをのせ、紙をセットしたら、レバーを引いてプレス。この工程を3人で分割して、1時間に200枚刷るという。「なかなかの重労働。でも、楽しいんですよね」。

 刷り上がった印刷物は、上から下にかけてインクにグラデーションがかかっていた。「昔なら『失敗』と見なされたでしょうね」とロブさんは苦笑い。

 だがそこには、デジタル加工には持ち得ない、手刷りの息遣いが宿っていた。

カラカラと音をたてながらローラーが回る、足踏み式活版印刷機は1901年製。手際よく紙を入れ替えるその手付きは、まるで餅つきのよう
「マスタープリンター」の異名を持つ旧オーナー、ロバート・ワーナー氏が守り続けてきた「古き良き」テイストの文具店
活字は一つ一つはめ込み、印刷が終わったらまたバラバラに
印刷所ではワークショップの開催の他、印刷したポストカードなども販売

 
インクは内蔵式ではないので、一回一回置き直す必要がある。まずはインクを台に落とし、ローラーに均一につくまでならす。ローラーのインクのムラをなくすことで印刷の仕上がりが美しくなる

活字にローラーでインク付け。大小異なる活字がある場合は、プレスに必要な圧力が異なるため、2回に分けて印刷する
紙をセット。枠を取り付けることで、常に同じ位置に、インクもれなく印刷することができる。なかなか気を遣う作業だ

紙と活字をプレス下にセット。重厚な音と共に動く機械は動かす手間は掛かるが、その分「自分で刷っている」気分が味わえる
レバーを手前に引いて、しっかり印刷(プレス)。「レバーは見た目ほど重くないですよ」とロブさん
ポスターが完成。インクのムラにより、上部にはややかすれが見えるが、下部の太字はくっきり印刷された。時には複数人で分担し、以上の行程をひたすら繰り返して、10時間刷るのだとか

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