2018/06/29発行 ジャピオン10号掲載記事

だんだんとダンディー スーツは男のうんちく満載

初めまして。ケン青木です。紳士服、スーツの仕事を通して、皆さんをすてきで、信頼感あふれる姿にすること、魅せることがミッションです。

読者の皆さんの多くが、スーツを着始めて10年以上のベテランであると思います。ですが当地でのビジネスシーンで、「あれ?」と違和感を抱いたことが何度かあるのではないでしょうか。紳士服とは、ある意味、男性の、かつ上層階級に属する男性の理屈の固まりだといえます。着こなしを一種のゲームとして捉える向きもありますが、ゲームを楽しむには、やはりルールを正しく理解することが必要です。そのためには、歴史をまずひも解かなければなりません。

欧米人が現代にも通じるスーツの原型を作り上げ、多くの人が着るようになったのは、19世紀半ばと決して古くはありません。

18世紀半ば、英国で起こった産業革命により、綿、毛織物製品の品質と生産力が劇的に向上しました。それに伴い、衣類の縫製技術も進歩しましたが、その中で一番大きく変わったのが軍服でした。

当時の戦闘は歩兵同士の戦いが主です。そして歩兵たちを率いる指揮官は、王族、貴族たち。彼らが騎馬で戦場に出る際、軍服には動きやすさだけでなく、指揮官としての見栄えの良さや、威厳を醸し出すことが求められました。そこで活躍したのが、ウールの生地です。産業革命以降の均質なウール地は、軍服を仕立てるのに適していました。

ウール地は可とう性(弾力)と可塑(かそ)性(形をつける)という相反する性質を合わせ持つので、立体化に優れています。自然なストレッチ性があり、丈夫で色落ち・色あせせず、暑いときに涼しく、寒いときには暖かく、軍服そして紳士服には最適の素材でした。

洋服の「仕立て」と聞くと、生地を裁断し、縫い上げることだと考えている人が多いと思います。しかし実は、生地を縫い合わせる前に、水とアイロンで平らな生地を立体化する「くせ」をつける作業があります。この工程は、体に合った服を作るために最も重要、かつ時間を要する、紳士服の本当の価値を決める作業で、テーラードの本質とも言えます。それを実現するのに適していたのがウール地でした。この際に生まれたスーツの伝統が現在にも継承されているのです。

控えめな光沢があり、誠実な人柄をアピールしやすいウール地。実は女性を引き立てる、男性のフォーマルな装いでも、ウール地は実力を発揮します。

例えばウール地のタキシードは、女性のシルクのイブニングドレスなど、華やかな装いを引き立てることをミッションとした装いです。さらに、それに合わせるエナメルの靴は靴墨を付けないので、ダンスの際、女性のドレスの裾を汚さないように考えられています。

女性のスーツに目を向けると、ココ・シャネルが女性用スーツを作り有名になりましたが、その直接のルーツは、やはり軍服にあると考えています。戦争映画などを観ていると女性兵士も軍服を着ています。スカートの軍服は、当然ながら男性兵士と同じ生地で作られています。

日本人が和服に対してこだわりがあるように、欧米人もスーツに関してはこだわりがあります。

私たちは流行を知ることはできますが、ついつい生地やスタイルにこだわりが行きがちで、立体として見る目が不足していると考えています。そして欧米人は、自分の姿をより良く見せるスーツを選ぶことを肌感覚で持っているように感じます。

スーツの仕立ての良し悪しを決めるのは、迫力ある立体的な裁断と縫製です。着物は直線に裁断し、左右シンメトリーで着用はラッピング。対して洋服は着物の真逆で、曲線を組み合わせて立体化し、左右非対称アシンメトリーです。

いきなりというのは難しいですが、こうした視点を持ち、次にスーツを選ぶ際の参考にしてください。だんだんとおしゃれになっていきましょう。

夏の着こなしポイント
ボウタイVゾーンには思い切ってボウタイ(蝶ネクタイ)を。またポケットスクエア(ポケットチーフ)にも照れることなくトライしましょう。胸ポケットから出方を2センチ程度に抑え、ふんわりとさせるパフドスタイルならば、派手過ぎず違和感もないはず。
綿·麻素材綿や麻素材のジャケットはシワにはなりやすいですが、季節らしい味わいがあります。パッドなど、中の構造物をなるべく省き、軽く柔らかく仕立てた綿や麻のジャケットに、きれいに折り目が入ったサマーウールのスラックスを合わせてみましょう。
靴夏のジャケットスタイルには、タッセルやローファーなどのスリップオンが合います。またネクタイをしていないと目に入りやすいのがベルト。靴の色とベルトの色をマッチングさせるのが、すっきり見せるのに効果的です。

ケン青木
服飾コンサルタント。日系アパレルメーカーの米国法人代表取締役を経て、現在、注文服専門のアパレルブランド「Tom James of New York」(www.tomjames.com)でコンサルタント業に携わる。

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