2016/04/29発行 ジャピオン1号掲載記事

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 スペインと聞いてまず何を思い浮かべるだろう。アントニ・ガウディの建築、フラメンコ、闘牛、パエリア…。この辺りが一般的ではないだろうか。だがそれは「相撲、芸者、忍者、アニメ」などと言われ、私たちが、「ううん、日本という国はそれだけでは語れないよ」と思うのと同じように、スペインにはディープな歴史と底知れぬ魅力が隠されている。

 今回取材を兼ねて旅をしたのは、アラゴン州の州都サラゴサ。スペイン北東部、マドリードとバルセロナのほぼ中央に位置し、肥沃なエブロ川の中流で発展を遂げた、カスティーリャ王国とともにスペインの基礎を作ったアラゴン王国の古都だ。

 ここの住民はサラゴサノス(サラゴサ出身者)であることを強く誇りに思い生きている。侵略と奪回の歴史は残された建築物に刻まれ、地元の人が「他で食べる料理より絶対においしい」と断言する豊かな食文化が、街のあちこちのタパスバーやレストランで、熱い会話とともに花開いている。この街の鼓動は、一度感じたら病みつきになる。

 ニューヨークで多忙な毎日を過ごす人に贈る、ヨーロッパのとある街への招待状。 

文/サンチェス甲斐田雅子
Text by Masako Sánchez Kaida
写真/アントニオ・サンチェス・ヴィニェケ
Photographs by Antonio Sánchez Viñeque

建築からひも解くサラゴサの歴史


1ムデハル様式の「アルハフェリア宮殿」と、2「サンサルバドール大聖堂」は「アラゴンのムデハル様式の建築物」として世界遺産に登録されている。3マグダレナ教会にもムデハル様式を見ることができる。4グランデ・ホセ・アントニオ・ラボルデタ公園内にあるアルフォンソ1世の像。この王の手により、サラゴサはイスラム教からキリスト教徒に取り戻された

 サラゴサという名前になる以前、ローマ時代に皇帝アウグストゥスにより「カエサラウグスタ」という街が建設された。紀元1世紀に作られた「カエサラウグスタ劇場」(Museodel TeatrodeCaesaraugusta)では、石造りの劇場跡が、併設の美術館では当時の浴場や、出土品を見学できる。また市内には当時の城壁も残されている。

レコンキスタが生んだ
ムデハル様式の建築

 西ゴート族などゲルマン人の侵入を経て、サラゴサをはじめイベリア半島はイスラム教徒の支配下に入る。1035年に、ピレネー山脈の山あいの街、ハカを首都とするアラゴン王国が成立。同国はエブロ川流域に進出し、1118年にはアルフォンソ1世がサラゴサをイスラム教徒から奪回した。世にいう「レコンキスタ(キリスト教国によるイベリア半島の再征服活動)」の流れだ。

 キリスト教徒による奪回後も同地には多くのイスラム教徒が残留した。彼らが残した建築様式とキリスト教建築様式が融合したスタイルが「ムデハル様式」。幾何学模様の繊細な装飾が特徴の「アラゴンのムデハル様式の建築物」は、世界遺産に登録されている。

 11世紀に建造され、レコンキスタ後は教会に改築され、14世紀から15世紀にかけてアラゴン王らの居城になった「アルハフェリア宮殿」(Aljaferia)はその一つだ。

 「サンサルバドール大聖堂(通称ラ・セオ)」(Catedraldel Salvador de Zaragoza, La Seo)も忘れてはならない。この荘厳なカトリック大聖堂は1119年に着工され、増築、改築を含めると1704年まで工事が続いた。そのため、ロマネスク、ゴシック、ムデハル、ルネッサンス、バロックの全ての様式を一度に見ることができる、世界でも珍しい建築となった。「マグダレナ教会」(LaMagdalena)、「サン・パブロ教会」(San Pablo)も、ムデハル様式だ。

柱上のマリア像が
国内外から人を呼ぶ

 サラゴサの街のシンボルが「ヌエストラ・セニョーラ・デル・ピラール聖堂」(Catedral-Basilica de Nuestra Senora del Pilar deZaragoza/このページ1枚目の写真)。言い伝えによると、紀元40年、エブロ川の岸辺にいた聖ヤコブの、目の前にあった柱の上に聖母マリアが現われ、教会を建てるよう命じたとされる。

 現在のバロック様式の巨大な教会は、1681年から1872年の間に建てられたもの。中には柱の上に立つ、40センチほどの小さな聖母マリア像(ピラールの聖母)が祭られている。このピラールの聖母はスペインおよびスペイン語圏の国々の守護聖人であることから、参拝者が後を絶たない。特に毎年10月12日に盛大に執り行われる、ピラールの聖母の祝祭「フィエスタス・デル・ピラール」には、スペイン国内外から数十万人もの人々が参列することで知られている。

 歴史的建造物は、アルハフェリア宮殿を除き、旧市街の比較的近い場所に点在している。のんびりと散策をしながら、悠久の時の流れを感じることができる。


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