2016/09/30発行 ジャピオン3号掲載記事

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 13世紀から16世紀にかけて南米アンデス高地一帯を制覇していた強大なインカ帝国は1533年、ピサロ率いるスペインの軍勢に滅ぼされた。クスコはその帝国の最後の首都として栄えた。近郊には世界的に知られるマチュピチュ、サクサイワマンなどのインカの人々によって作られた遺跡が点在する。インカ文明は文字を持たなかったため、その目的や建築法について、いまも多くの謎を残しつつ、たたずんでいる。

 そしてスペイン軍の征服の拠点で、ピサロが1535年に築いた都市がリマである。アメリカ独立の200年以上も前の話だ。

 標高3400メートルの高地にあるクスコに比して、ペルー共和国の首都であり、人口約900万人の近代的な大都会、リマは海抜0メートル。この国の政治、商業、金融の中心としての機能を持つ。同時に海外からの旅行者にとっては、ペルー各地への旅の起点となる場所だ。

 今回は、歴史的な建造物が立ち並ぶ、世界遺産に指定された街並みを始め、風土、食など、二つの「首都」のそれぞれの魅力にせまる。

Text by Hideo Nakamura

天空の古都クスコ




1サクサイワマンから眺めるクスコの街並み。写真の中央がアルマス広場2太陽神殿「コリカンチャ」のあった場所に建つ、サント・ドミンゴ教会。黒い石垣が今も残る太陽神殿の一部3昔ながらの街並みが美しいサンブラス地区

 クスコの標高は3400メートル。飛行機を降りたとたんにひんやり乾いた空気の薄さに面食らう。紺碧の空と銀嶺を背景に空港から車で10分。街の入り口付近にあるインカ時代の城塞サクサイワマンに到着する。ここから眺めるクスコ市街が絶景だ。すり鉢状の盆地にオレンジの屋根がびっしり密集。30万超が暮らす。

 すり鉢の底の部分にアルマス広場があって、広場を中心にホテルが集まっている。世界中の都市は概ね眺めのよい「山手」のほうが高級と相場が決まっているが、クスコは反対。金持ちや皇帝が一番低いところに住み、一般人はすり鉢のヘリ近くに住むのだそうだ。投宿したら高地馴化(じゅんか)も兼ねて坂の街を散歩するといい。主な名所は歩いて行ける場所にある。

 見どころの一つが太陽神殿コリカンチャ。壮大な石垣の上にそびえる頑強な石造の建造物は、インカ帝国皇帝の居所でありインカ人が信奉していた太陽神を祀る宗教施設でもあった。現在は博物館になっていて内部も見学できる。かつては、室内の壁が全て金箔で覆われていたそうだが、スペイン軍による略奪で、今は見る影もない。ただ、征服者たちも手が出なかった精巧な石積み建築は今も健在だ。展示の中には脳外科手術の痕跡が残る頭蓋骨などインカ文明の高度さを証明する品々が多く、想像力をかき立てられる。

 コリカンチャを出たらアルマス広場まで歩いてみよう。細い路地に昔ながらの食堂や雑貨店が並び、子供たちがエンパナーダを買い食いしている。そこここにインカ時代の石垣が残っているが、石同士はカミソリの刃1枚通らないほどの精度で密着している。見ものは宗教美術博物館の壁にある石積み。14角の石がぴったりくっついている。

 魅了されながら路地を抜けるとアルマス広場に出る。帝国時代は白砂が敷き詰められた宗教儀式の場だったが、スペイン人植民者はここに大聖堂を建て街の中心とした。広場の回りに並ぶブティックも楽しい。ペルーの高地の名産アルパカ毛糸のセーターは、柔かい着心地もさることながらデザインが豊富でかわいらしい。ワンランク上を目指す人にはベビーアルパカ製をすすめるが、最高級を求めるなら稀少種のビキューニャ製セーターに触れてほしい。指が溶けるかと思うほど滑らかな肌触りは、ここでしか買えない。他にも、民族色豊かなカバンや帽子、織物、陶器などクスコは、お土産には事欠かない。

 広場の回りにはカフェやレストランも多い。意外にもアンデスは食物の豊かな土地柄で野菜、中でもトウモロコシとジャガイモの味にビックリする。トウモロコシは何種類かあるが、いわゆる「ジャイアントコーン」サイズの大粒のものが甘味たっぷり。ジャガイモに至っては原産国だけに3000種類もあるそう。超ミニサイズのものや紫や赤いジャガイモも試してみると面白い。珍味では「ペへライ」とよばれる白身の川魚。泥臭さがなく、フライでいただくとおいしい。

 繊細かつワイルドなインカ文明はいまなおクスコの食文化に息づく。


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