2017/03/31発行 ジャピオン5号掲載記事

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 イベリア半島の西、テージョ川河畔にある、ポルトガルの首都リスボン。紀元前にこの地に住んでいたフェニキア人の言葉で「安全な港」を意味する、「リスボア」と地元住民は呼ぶ。

 1年を通じて穏やかな気候が続くためか、近年、観光地として人気が高まり、かつては観光オフシーズンと言われた季節にも市内には観光客があふれている。

 石畳の道、素朴で少しさびれた古い街並みには、どこか懐かしさを覚える。お菓子好きの住民に混じって、ショーケースに並ぶ色とりどりの焼き菓子を眺めていると、店員が気さくに声を掛けてくる。「ボンディーア。リスボアは気に入った?」。この空気に触れれば触れるほど、街への愛着が湧いてきて、いつしか自分も「リスボア」と呼んでいることに気付く。

 ローマ帝国、ゴート人、イスラム勢力に支配された歴史を持つが、たくましく異文化を取り入れ、より一層彩りが加えられた街。そして大航海時代には世界をけん引する港として栄え、海外との交易で得た巨万の富が残した、数多くの建造物が今も人々を魅了する。今回はリスボンとその近郊の魅力を紹介する。

光あふれるリスボン·ベレン



1ポルタス・ド・ソル広場の展望台から眺めたアルファマ地区。1755年のリスボン地震でも生き残った古い街並み21502年に着工し、完成におよそ300年かかったジェロニモス修道院。マヌエル様式の建築物では最高峰といわれる31520年に建てられたベレンの塔は、マヌエル様式の外観が美しい

 小高い丘に囲まれ、起伏の激しいリスボン。その街並みを見て回るのには、名物の路面電車を使うのがいい。

 20世紀初頭に登場し、市民の足として利用されてきたこの市電。市内で最も古い街並みを残すアルファマ地区を回る12番、郊外に伸びる15番など、現在も五つの路線が運行中だ。リスボンの美しい街並みや景色を一通り眺めたいならば28番がおすすめ。エストーラ聖堂を出発し、坂の上のバイロ・アルト地区、商店が並ぶカモンイス広場、レストランがひしめくバイシャ地区を抜け、丘の頂きのサンジョルジェ城を横目に見てマルティン・モニスに至る、見所満載の、観光客に人気の路線だ。

 住宅地では軒先をすれすれに通り抜け、石畳の狭い道ではゴトゴトと無骨な音を立て、コーナーでは乗客を激しく左右に振り回す。運転手はお約束のように無愛想だ。正直なところ、乗り心地は決して良くはない。だがそれを補って余りあるほど、リスボンの街と共に長い時間を一緒に過ごしてきた旧車両の車窓からの眺めは楽しく魅力的だ。

 坂道を登った丘から見えるテージョ川の光る水面、何気なく通り過ぎる繁華街の中に突如として現れる、長い歴史を持つ石造りの大聖堂や建物の威厳ある佇まい。そんな観光客向けのよそ行きの顔だけかと思えば、ベランダに干された色鮮やかな洗濯物や、小さな雑貨屋の軒先で話し込む老人たちの姿など、ここに暮らす人たちの素顔も車窓は映し出す。おしりが痛くなったら途中下車して、リスボン大聖堂や、アルファマの街を一望できるポルタス・ド・ソル広場の展望台を訪れるのもいい。

 街巡りの後は、テージョ川河畔に面したコメルシオ広場前から市電15番に乗り30分ほどの、二つの世界遺産があるベレン地区へ赴きたい。ポルトガルには15世紀から始まる大航海時代に活躍した二人の英雄がいる。一人は冒険家たちを支援し、自らもアフリカを探検したエンリケ航海王子。そしてこの国が海上帝国を築く土台となるインド航路の発見者バスコ・ダ・ガマ。ベレンには、この二人の偉業を記念し、ポルトガル王、マヌエル1世が1502年に着工、完成におよそ300年を費やした世界遺産、「ジェロニモス修道院」がある。海外との交易で得た資金を惜しみなくつぎ込み、当時ポルトガルで流行し、王の名を冠したマヌエル様式で建てられた。海外から呼んだ建築家らによる、船や海がモチーフの装飾は、時に過剰とも揶揄(やゆ)されるが、日がな眺めていても飽きない。

 そこから歩いてもう一つの世界遺産、「ベレンの塔」へ。テージョ川監視の目的で1520年に建てられた石作りの要塞で、こちらもマヌエル1世が手掛けたもの。優雅なマヌエル様式の外観が特徴だ。

 ベレンの最後には、テージョ川沿いを歩き、「発見のモニュメント」を訪れてほしい。両側に配されたレリーフの中には、今まさに海へ漕ぎ出さんとするエンリケ王子、バスコ・ダ・ガマの姿がある。その屋上展望台からは、光あふれるベルンとリスボンの街並みが一望できる。


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