2017/06/30発行 ジャピオン6号掲載記事

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 北アメリカ大陸は、一年中で最高の季節になる。仕事はそこそこに、短期休暇届けを出したら進路を南にとって旅に出よう。目的地はフロリダ州キーウェスト。長さ6・4キロ、幅1・6キロ、面積13・6平方キロ。アメリカ本土最南端に当たり、海峡の向こう約145キロにはキューバがある。そう聞いただけでワクワクしてくる。歴史的にもキューバとフロリダを仲介する重要な役目を担っていたキーウェストは、マイアミから国道1号線でつながっているから、レンタカーで行くといい。

 紺ぺきの空と潮風にそよぐヤシ。目の覚めるようなビキニガールと屈強な老漁師。海を眺めながらキリリと冷えたモヒートでもすすれば、昨日までの都会の憂さはどこへやら。

 こんな地上の楽園みたいな場所だから、昔から有名人が隠れ家に使っていた。中でも有名なのが文豪アーネスト・「パパ」・ヘミングウェイだ。作家を時代の寵児ともてはやし、夜毎に宴会三昧していたパリのけん騒にきっぱり「さらば」を告げたパパは、1928年から40年まで、この島をベースに執筆活動と海釣りにのめり込んだ。

 作家ヘミングェイが愛した小島、キーウェストの魅力に迫る。

車でたどり着く米本土最南端



1サンゴ礁の島々が連なるフロリダキーズ諸島。キーウェストはその南西の端にある島2キーウェスト行きのクライマックス「セブンマイルブリッジ」。1979〜80年にかけて建設された3島の開発は16世紀にさかのぼる。スペインとの領土争いの末、1822年にあのペリー総督が米国領土宣言した

 キーウェストを目指して、うだる亜熱帯マイアミから国道1号線を南西にひた走る。通称オーバーシーズ・ハイウェー。飛び石のように連なるサンゴの島々をつなぐ橋は42あるそうだが、途中で数えるのをやめた。距離にして約265キロ。時間にしておよそ3時間半。行程の終盤、有名なセブンマイルブリッジを渡る。全長11キロにわたる海上の道は、映画「トゥルーライズ」や「007消されたライセンス」にも登場した。

 車が潮風に後押しされるような爽快な気分になり、車内BGMの「ココモ」(ザ・ビーチ・ボーイズ)の音量を上げてしまう。車で行けて、お手軽にカリブの気候を満喫できるが、ここもアメリカ。しかも本土最南端の町なのだ。

 キーウェストの人口は、2万5000人余り。海岸近くに立つ最南端標識には「キューバまで90マイル」の文言が読める。町を歩くと白やパステルカラーのビーチハウス風建物が目立つ。当地特有の「コンクハウス」と呼ばれる様式らしい。風通しの良さそうなポーチに籐(とう)の椅子でも出して古びた小説でも読んだらすてきだろう。ベッド&ブレックファーストを営むコンクハウスもあるので一泊するのも一興だ。

 町の全貌を把握したかったら名物の灯台を訪ねるといい。サンゴ礁が多い周辺海域の航行を助けるために1848年に建てられた。初代灯台守は、当時でも珍しく、女性だったそうだ。1969年に操業停止となり、現在は史跡として一般公開されている。88段のらせん階段を登ると、平らな町並みの向こう、南の水平線に目を凝らせば、彼方にキューバの島影が見えた(?)ような気もする。

 イデオロギーの違いで1961年から2015年まで、アメリカとの国交が断絶されていたキューバであるが、90マイル=約145キロの海原には国境線が見えるわけではなく、鉄条網や「壁」があるわけでもない。むしろ海を渡ってキューバの文化はキーウェストに否応なしに伝わっている。

 例えば、キューバ料理は、この町の名物だ。肉や魚介類をごはんと豆の煮物と一緒盛りにして豪快にいただくスタイルで、日本人の口にも合う。港に隣接する「エル・メソン・デ・ぺぺ」は、100席以上ある大店で、シーズンになると観光客で満杯となる。ローストポークとプランテーン・バナナをトウモロコシの皮で包んだ「タマル・クバーノ・エン・ホヤ」は野趣あふれる味わい。コンク貝をコーンミールの衣をつけて揚げた「フリチュラス・デ・コボ」も素材が新鮮なだけにコリコリの食感がたまらない。一方、町の中心部にある「エル・シボニー」レストランは地元住民御用達の家庭的な店。マヒマヒやハタ、エビなどその日に獲れた地元産魚介類をシンプルなグリルで提供する。

 「キューバ」といって欠かせないのが、深いり豆をエスプレッソマシーンでいれ、デミタスカップで飲むコーヒー。何も言わないと大量の砂糖を入れてくるから要注意だが、肌を刺すような南国の太陽の下では、この「甘苦さ」が快適な刺激に感じられるから不思議だ。


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