2018/01/05発行 2018 WINTER掲載記事

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 「デザイン」と辞書で引けば、設計、構築、意匠を施すこと、などと解説が出てくるが、現代において「デザイン」とは何を意味していて、どのような役割を果たしているのか。今回はそんな問い掛けから始まる「デザイン」をめぐる冒険。

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「デザインとは何か?」

 そんな直接的な問い掛けに、ポライト・マシーンズ代表のエイジェイ・レベルズさんは「目的を果たすための手段と捉えています」と答える。

 レベルズさんは、デザインリサーチャーとして15年の経歴を持つ。デザインリサーチャーとは、まさに言葉の通り、「目的を果たすための手段」が、商品、サービスで的確に実践されているのかを検証する仕事だ。

 例えばある商品の売り上げが思わしくない場合、その製品が、何を目的に作られ、そのためにどんな機能を持ち、ユーザーがそれをどう使っていて、何に満足し、逆に何に不満を持っているのか、情報を集めて分析する。そこから目的を果たすために、形や機能、提示方法をどう変えればよいかを提案する。

 「現代のデザインの潮流は二つあります」とレベルズさん。一つは古典的だが、物理面を考慮したもの。例としては車を運転するという目的のために、ハンドル、ペダル、座席の位置を考えることなどが挙げられる。また人間の見る、聞く、触る、座るなどの身体情報を扱う人間工学(英語ではエルゴノミクス、ヒューマンファクター)を基に、形状や機能を考えるものもある。

 もう一つは、ユーザーエクスペリエンス(UX)に代表される、見る、聞く、触ることなどから得られる心理的な効果や認知体験、感性体験といったメンタルな面の情報を基にしたもので、さまざまな場面で取り入れられているという。

デザインの潮流

 現代においては、フィジカル、メンタルの要素が、さらに目的別に細部化され、一つの商品、サービスを開発する際には、多様なデザインの要素が合わさることになるとレベルズさんは解説する。

 レベルズさんが航空会社から、「ウェブサイトの利用者を増やしたい」という相談を受けたと仮定して行った検証方法が分かりやすい。

 まず、ウェブサイトは、チケット購入、事前チェックインを簡単に迅速に行えるようにすることでユーザーを増やすことを目的としていたが、ユーザーに機能が使われていないと想定。

Ajay Revelsさん
University of California Berkleyでデザイン理論、Pratt Instituteなどでデザインアントレプレナーシップなどを学ぶ。UXコンサルタント、デザインリサーチャーとして長年活動している。PoliteMachines代表、デザインリサーチャー。

www.politemachines.com


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 「チケット購入ができる」「事前チェックインができる」という機能はウェブサイト上に置かれてはいるが、目に付きにくかったり、操作がスムーズではなかったとする。

 「つまりここには、目的を果たすために、人間の目の動きを配慮したデザインや操作性という物理的なデザインが欠けていたということになります」

 さらにユーザーからのフィードバックを集めると、航空券購入や事前チェックインだけでなく、ホテルやレンタカーの手配も一度に行いたいという要望が分かったとする。そこから利便性を求める人は、時間と手間が掛かっても、ワンストップで手配できる旅行代理店や旅行関連のオンラインサイトを利用する傾向も推測できる。

 実際にはもっと複雑にさまざまな要素が絡んできますが、と前置きしつつ、「『利用者を増やす』目的を果たすためには、ウェブサイトには物理的デザインの改善と、ユーザーがこのウェブサイトを使うことで得るメリットや満足という体験を考慮したデザイン、さらにそれら複数の要素を統括し、ユーザーと機能を効率よく結び付けるインタラクションを考慮したデザインが必要、ということになります」。

 現代で一口にデザインといっても、フィジカル、メンタル、エクスペリエンス、インタラクションなど多種多様なデザイン、つまり「目的を達成するための手段」があり、デザイナーに求められる知識、スキル、そしてリザルトも違う。さらに細分化された手段を、もっと大きな目的のために統括するデザイナーもいて、「現代において、何か商品やサービスを開発するデザインは、一人で担うものではなくなってきています」とレベルズさんは解説する。

 特にアメリカでは、1960年代に「グラフィカルユーザーインターフェース」(コンピューター画面でアイコンやボタンなどをグラフィックで表示し、マウスなどで機能の実行を指示する仕組み)の登場で、デザインに対する考え方が根本的に変わったという。それまでは目的を達成するために別々の機能が必要だったが、一つの画面に機能と目的が集約されたことで、デザインが複合的に絡み合うことになった。現在のようにさまざまな体験をスムーズに提供できるようになったのは、その中でグラフィックデザインやUXデザインが取り入れられた結果であるといえる。

デザインの出発点

 レベルズさん自身の「デザイン」をめぐる冒険は、2000年代初頭、アメリカの通信大手から依頼を受け、日本の携帯電話文化を調査したことから始まったという。スマートフォン登場前で、ガラケーが主流。依頼は、利用者獲得のため、海外の携帯電話の利用事情を知りたいというのもだった。

 「調査をして分かったことは、多く人が会社用、自宅用など用途に分けて複数台持ちをしていることや、ティーンエージャーが動画を送り合い、コミュニケーションツールとして使っていたこと、さらに地下にいても、地下鉄に乗っていても電波を受信できる環境でした」

 調査結果を報告した際、依頼主が驚いたという。

 「それまでアメリカの商品、サービスの売り方の主流は、こんな素晴らしいアイデア、発明があるから買ってくれ、というもの。ユーザーのフィードバックもあまり考慮されず、その商品を実際に使うときに経験すること、より有効に使う手段や環境の変化、つまりUXやテクノロジーと人間のインタラクティブな関係性を考慮したデザインは考えられていませんでした。日本では当時から、商品、サービス、環境、システムのデザインにそうした考えが自然に取り入れられていたことに驚きました」

 それをきっかけに、日本のデザインやその根本にある考え方に関心を持ち始め、デザインリサーチャーという仕事をしてきたという。

 アメリカの傾向も変わって、現代ではユーザーからのフィードバックのデータを利用し、目的を達成するために多角的に考えるデザインが、どんな業界でも不可欠だと考えられるようになったとレベルズさん。

 「同じくデータを使うマーケティングは商品を効果的に売る方法、人々にコンセプトや価値を認知させる方法を生み出すことを得意とします。一方、デザインは同じくデータを利用しながら、新しい価値自体を生み出すことに強みを発揮する手段だと考えています」


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